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鉄道におけるイーサネット通信機器

鵜澤 裕一     2022年2月24日
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原文は、会員限定会報誌《鉄道車両工業》No. 501 2022年1月号に掲載され、一般社団法人日本鉄道車輌工業会の許可を得て転載されました。

1. はじめに

イーサネットは1970 年代に生まれ、コンピュータ同士を接続する通信手段として発達し、業務のOA 化、また家庭でのパソコンの普及によりオフィスをはじめ、家庭でも活用されてきました。近年では、産業用途として情報通信インフラの基盤技術として、工場内、自動車、鉄道に至るまでコンピュータ技術の発展と普及とともにその適用範囲も拡大し続けています。また、無線接続が広く普及した事に伴い、現在では「イーサネット」という単語は、主に有線LAN (Local Area Network) を指すことも多くなっています。

規格としては、米国電気電子学会(IEEE)により「IEEE802.3」として標準化されており、通信の伝送方法として物理的な実装(メディア ・媒体)およびプロトコルとしてのイーサネットフレームといったデータの送受方法などが定められています。イーサネットを用いたさま ざまなアプリケーション( 産業・鉄道など) としての各国・地域における通信規格は、そのベースとしてIEEE802.3を参照しています。

2. イーサネット通信の特徴

(1)メタル線と光ファイバーケーブル

イーサネット通信の有線LAN として用いられるケーブルとしてはメタル線( 銅線) および光ファイバケーブルの2種類があります。メタル線は主にRJ45 タイプのコネクタを用いて、オフィスや家庭などで一般的に使用されています。一方、光ファイバーケーブルはコネクタ形状も複数あり、ファイバー内の反射方式により「シングル」、「マルチモード」と別れています。メタルケーブルによる伝送はその仕様からオフィスや工場の設備内といった距離に制限されますが、光ファイバーではkm 単位での伝送が可能であり、鉄道、道路などの沿線を結ぶ広範囲のネットワークが形成できます。さらに光ファイバーは距離というメリットだけではなく、電気的ノイズに強いことやファイバーの軽さ細さなどから電力関係など設置環境によるさまざまな制約と問題を克服できます。その反面、敷設作業やコストの点でのデメリットもあります。

(2)通信方式

通信速度は規格として10Mbit、100Mbit、1Gbit、10Gbitなどがあります。100Mbitでは4芯、1Gbitでは8芯のメタル線が用いられ、1Gbitの規格では100Mbit/10Mbitの下位互換性が取られています。光ファイバーケーブルは送信と受信の2芯で、両端を接続する「トランシーバ」という機器によって速度のバリーションがあります。通信の方法としては、ネットワークに接続されるデバイスごとにMACアドレスと言う識別番号が一意に振られており、これを送信元・送信先といった宛先情報にし、パケットのタイプといったタグ情報と送信したい内容自体のデータをフレームという単位にしてLAN 内に流します。送信は任意のタイミングで行うことができます。現在ではネットワークスイッチ(スイッチングハブ)と呼ばれる機器が主流となり、他者の送信タイミングに関係なくフレームを送るという役割を担っています。そして、スイッ チやルーターと呼ばれる機器は、外部あるいは上位のネットワークに接続できる中継機能を持ち、より大きなネットワークを構成する ことが可能になります。

シリアル通信や旧来のメタル線通信のように、基本的に1対1という通信機能で複数のデバイスを接続するために何本ものワイヤーを敷設するということがなくなり、1本のケーブルで多くのデバイス同士が通信できることがイーサネットの利点であり、今日の発展の要因です。

(3)TCP/IPプロトコル

イーサネットによるネットワークを用いてさまざまなアプリケーションソフトウェアが同じネットワーク上で通信します。コンピュータの通信機能を7 つのレイヤー( 階層)に分類して定義した「OSI 参照モデル」により、各層でのプロトコル( 規約) によって下位層での実装に依存することなく上位アプリケーションでのソフトウェア構築が可能になっています。その中でもTCP/IP プロトコルは広く用いられており、物理層(レイヤー1)の違いを吸収し、レイヤー2 でのイーサネットフレーム、それに内包される形でレイヤー3でのIPパケット形式での送受信、エラーの検出、通信セッションの確立、暗号化の対応など複数が同時に同一のネットワークで通信する手順が共通化されており、ソフトウェア構築の負担を低減しています。

3. イーサネットと鉄道

重要な社会インフラである鉄道も、人間による制御から機械によるフェールセーフ機能を実装した自動化に取り組んできました。さらに近年では、鉄道システムの高度化に伴い複数のコンピュータによる制御と通信、沿線・車両内外における多数のセンサの設置と監視、車両や地上機器のコスト低減、といったさまざまな課題に対する対策の一つとして、イーサネットの導入が進められています。監視室から駅、車両基地、沿線、さらには車両までを繋ぐコンピュータネットワークや、車両内の機器やセンサーを集約する車両搭載コンピュータ、更に近年のセキュリティ対策の要請による監視カメラの設置などで、車両内・車両間においても伝送する情報量が飛躍的に増大しています。RS-232/422/485 といったシリアル通信による接点情報の伝送や鉄道用通信バスだけでは、この膨大な情報を収容することが不可能になり、鉄道車両に搭載される末端機器まで、イーサネットの導入が進められています。

イーサネットの導入にあたり、鉄道インフラにおいてはオフィスなどの一般的なLANとは異なる機能および性能が要求されます。鉄道分野では特に使用環境での要求性能に特徴があり、より堅牢で信頼性の高い機器が求められます。

(1)駅・指令室におけるイーサネット

中央制御室においては空調のあるオフィス環境と同様のラックマウント形式の機器やメタル線主体のLAN が使用され、外部とは光ファイバーケーブルでの設置が一般的です。しかし、重要インフラとしての役割を担う上で故障対策が必須で、重要な課題です。電源の冗長化、故障時のアラーム発出など、点としての機器自体の対策とともに、ネットワークとして通信経路の冗長化も必要です。ネットワークをメッシュ状やリング状に構成し、スパニングツリーやリング、チェインというプロトコルを用いることで、ネットワーク上のスイッチやルーターなどの中継装置が故障しても迅速に経路変更が可能となっています。さらにQoS (Quality of Service) と呼ばれるパケットの優先順位を制御する機能が適用されており、緊急性高く重要なデータを優先的に伝送できるように、スイッチやルーターなどの中継装置で制御されています。

(2)沿線・車両におけるイーサネット

沿線に配置される通信機器は主に盤内に設置されますが、塵への対処から冷却ファンなどの機械的部品が排除され、寒冷地から夏季の高温の中でも広範囲の温度で動作保証された産業用の機器が必要です。また踏切近傍では振動への対処から、振動テストの規格に準拠した製品を用いる必要もあります。

鉄道車両に搭載される機器には、上記の機能以上に「振動」「防水防滴」への対応がなされたより信頼性の高い機器が用いられます。電源の二重化はもちろん、振動への対策がなされた筐体、機器内部基板へのコーティングなど、外観も通常のラックマウント形式の機器とは大きく異なり、またケーブルも通常防水、振動対策されたM12型コネクタとケーブルが用いられています。さらに100Mbit伝送用では「Dコード」、1Gbit伝送用では「Xコード」と呼ばれるコネクタが使用され、一般のRJ45コネクタとは互換性がありません。光ファイバーケーブルの接続においてもQ-ODCコネクタなどの特別なものが用いられています。

(3)車両内伝送におけるイーサネット

車両内ネットワークにおいても前述の、リング状のネットワーク構成、系統2重化、QoS機能の装備、などといった多くの冗長化対策が適用されています。さらに最近では、車両の連結開放に対応できるようネットワーク全体を、列車内伝送系ECN (Ethernet Consist Networks:イーサネットコンシストネットワーク)と、4両編成+6両編成を連結した編成全体での基幹ネットワークETB (Ethernet Train Backbone Networks:イーサネット列車バックボーン) で構成されることも多くなってきました。

また、搭載機器の種類が増える一方で車両運行に必要な情報との分離や、監視カメラ映像や液晶画面による旅客案内表示などといった動画の大容量伝送への対応、車内乗客向けWiFiサービスとエンターテインメントを含めた乗客サービスなど、ネットワークの利用は多岐にわたり、ECN、ETB と複数のネットワークを組み合わせて構成しています。

一方で、編成内でのネットワーク敷設で問題となるのは連結器です。従来の連結器にイーサネット通信のための余剰が無く、2線式のイーサネットを用いている場合があります。また、旧来車両の更新の場合は、編成間通信に無線を用いる場合もあります。新造車両にはイーサネット通信を考慮した連結器が採用されることが多く、最新技術の適用が可能です。

4. おわりに

現在、CO2 排出量削減が世界的な課題となり、各国で鉄道のさらなる活用が計画されています。そうした中、鉄道の高機能化、自動化の必要性もより高まっています。その様なニーズを実現するため、安全性を確保した上で多くの機器を接続して情報通信を可能にするイーサネットの適用が鉄道分野で広がっています。共通規格によるハードウェアコストの削減、ソフトウェア構築の容易性によって、日本国内はもとより世界中で鉄道へのイーサネット導入は進んでおり、今後さらに発展していくものと見込まれています。

図 鉄道におけるイーサネット適用の全体構成例 (図を拡大する)

 

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