海事業界における持続可能性は、複雑に絡み合った国際規制と切り離せない関係にあります。これらの枠組みは、国際海事機関（IMO）[1]および欧州連合（EU）[2]が主導しており、より環境に配慮した持続可能な海運業界の実現を目指しています。本記事では、主要な規制とそれが海事業務に与える影響について詳述します。
EEDI：新造船におけるエネルギー効率基準の策定
エネルギー効率設計指標（EEDI）は、新造船に対して義務的なエネルギー効率基準を定め、特定の排出基準の達成を求めています。[3]この規制は、船舶建造業者に対し、燃料消費量や炭素排出量を最小限に抑える革新的な設計や技術、例えば最適化された船体形状、高度な推進システム、省エネルギー装置の導入を促しています。これらの基準を達成するためには、既存の運用体制に負荷をかける複雑なシステムの統合が必要となる場合が多くあります。シームレスな統合と信頼性の高いパフォーマンスが不可欠であり、複雑さを簡素化し、規制遵守を確実にする産業用グレードのソリューションが求められます。
EEXI：既存船隊における効率改善の推進
EEDIを補完する形で、エネルギー効率既存船指標（EEXI）は既存船舶に焦点を当て、エネルギー効率の向上を義務付けています。[4]この規制は、船主に対し、改造や運航最適化への投資を促します。船体改良、プロペラのアップグレード、エンジン効率の向上などの施策は、EEXI基準を満たし、既存船舶の持続可能性を優先するために不可欠です。
持続的な遵守と性能を確保するためには、船主は改造済みシステムの効率に関するリアルタイムの洞察が必要です。高度なネットワークおよびモニタリングソリューションは、継続的なデータストリームを提供し、予防保全の実施、改善点の特定、規制当局へのコンプライアンスの証明を支援します。
CII：Carbon Intensity Indicator（カーボン・インテンシティ・インジケータ―）
CIIは、輸送貨物1単位あたりの海里ごとの二酸化炭素排出量を測定することで、船舶の運航効率を評価する重要な指標を導入します。本規制の下、船舶は燃費の実績に基づき、A（最良）からE（最悪）までの年間評価が付与されます。
このシステムは継続的な改善を促進します。3年連続でDまたはE評価を受けた船舶は、適合性回復のための是正措置計画を策定しなければなりません。CIIの枠組みは、船主に対し、運航の最適化、燃料消費の削減、クリーンエネルギー源の導入を促し、有利な評価の維持を求めています。[5]高度なデータ分析およびパフォーマンス監視システムは、コンプライアンス推進において極めて重要な役割を果たし、運航効率の向上や規制要件への適合に向けた実用的な洞察を提供します。
CIIを持続可能性戦略に統合することで、海事業界の関係者は環境管理能力を高めるだけでなく、脱炭素化への関心が高まる市場において競争力も強化できます。
| 側面 |
EEDI |
EEXI |
CII |
| 定義 |
新造船向けエネルギー効率設計指標 |
既存船舶向けエネルギー効率既存船指標 |
貨物1単位・海里あたりの運航炭素効率を測定するカーボン・インテンシティ・インジケーター |
| 適用範囲 |
新造船に適用 |
運航中の既存船舶を対象 |
5000総トン（GT）超のすべての運航船舶に適用 |
| 目的 |
特定の排出基準を満たすため、エネルギー効率の高い船舶設計を確保す |
エネルギー効率向上のための改造および運用最適化を義務付け |
年間パフォーマンス評価（A～E）による炭素強度の継続的な改善を促進 |
| 主要施策 |
最適化された船体形状、高度な推進システム、省エネルギー装置 |
船体改造、プロペラのアップグレード、エンジン効率の向上、改造工事 |
運用変更、燃料消費量の削減、クリーンエネルギーの導入、航海計画の最適化 |
| パフォーマンス指標 |
建造段階での効率性を確保する設計ベースの指標 |
改造によるエネルギー効率向上を反映する指標 |
輸送実績に対するCO₂排出量を測定する運用指標 |
| 実施要件 |
造船業者は、基準を満たすためにエネルギー効率の高い設計および技術を採用しなければならない |
船主は、基準を満たすために船舶の改造および運用の最適化を行う必要がある |
船主は、運用パフォーマンスを監視・報告し、データ分析を活用して効率を向上させ、規制遵守を確保しなければならない |
表1：海事産業脱炭素規制の概要
MARPOL Annex VI：大気汚染問題への対応
MARPOL条約のAnnex VIは、海事業界の環境規制の要となっている。これは、船舶からの硫黄酸化物（SOx）および窒素酸化物（NOx）の排出を制限し、大気汚染や海洋生態系および人の健康への影響に対処します。[6]低硫黄燃料の使用や、スクラバーおよび選択的触媒還元（SCR）システムなどの先進的な排出削減技術の導入を義務付けることで、附属書VIは環境と公衆衛生の双方を保護します。
規制遵守の徹底および排出削減システムの完全性維持は、しばしば困難を伴います。信頼性の高い監視ツールと安全な通信ネットワークは、排出レベルのリアルタイムデータを提供し、システム障害や高額なダウンタイムを未然に防ぐための予防保守を可能にすることで、コンプライアンスプロセスを簡素化します。
FuelEU Maritime：よりクリーンな燃料への道を切り拓く
EUのFuelEU Maritime規則は、船舶のエネルギー使用に対する温室効果ガス強度の上限を設定する先進的な取り組みです。本規則は、グリーン水素などの持続可能な燃料の利用を促進し、海事業界におけるイノベーションと脱炭素化を推進します。[7]これはEUのより広範な気候目標と密接に連携しており、よりクリーンなエネルギー源の導入を強調し、持続可能な海上輸送システムの構築を促進します。
この複雑な規制環境を航行するには、柔軟なソリューションが求められます。データ統合および安全な接続性に関する専門知識により、船主は新たな技術を円滑に導入し、燃料消費量を追跡し、進化する規制への適合を証明することが可能となります。
課題の克服と機会の創出
これらの規制への適合には、多大な投資と運用上の調整が求められます。改修費用、新技術の導入、乗組員の訓練には多額のコストが発生する場合があります。さらに、すべてのシステムの安全性と相互運用性を維持することも継続的な課題です。
安全かつスケーラブルなソリューションは、信頼性の高いデータ管理、シームレスなシステム統合、強化されたネットワークセキュリティを提供することで、これらの課題を解決します。これらの技術を積極的に導入し、規制要件に適合することで、海事業界の関係者は将来にわたる事業の持続可能性を確保し、効率性を向上させ、世界的な持続可能性目標への貢献が可能となります。
規制環境は、海事業界を持続可能な未来へと導く重要な羅針盤です。これらの枠組みに準拠することで、業界は環境負荷を軽減するだけでなく、責任あるグローバルプレーヤーとしての役割を強化することができます。業界が進化する中で、規制は今後もより環境に配慮した海とクリーンな地球への道を形作り続けるでしょう。
詳細については、Moxaの海事向け特設サイトをご覧ください。