パンデミック後の世界では、柔軟性、効率性、回復力、持続可能性が主役となり、産業界のリーダーの多くは、スマートマニュファクチャリングの時代は近い将来すぐに訪れると考えています。実際、スマートマニュファクチャリング向けの産業用モノのインターネット(IIoT)ネットワークの実現にむけて、Open Platform Communications Unified Architecture Field Exchange(OPC UA FX)、Time-Sensitive Networking(TSN)、Wi-Fi 6/7、5G、Single-pair Ethernet(SPE)/Ethernet–APLといった新しいテクノロジーや規格の採用が進んでいます。
今回、IIoT分野の経験豊富な専門家2人に、スマートマニュファクチャリングの未来とその実現方法に関する洞察を語っていただきました。B&R Industrial Automation(ABBグループ)の製品管理制御システム、マシンビジョンおよびネットワーク担当バイスプレジデントであるStefan Schönegger氏が、Moxaの産業用ネットワークインフラ部門の製品マネージャーであるJack Linと共に、多くの業界がインテリジェントマニュファクチャリングの実現に向けて産業用ネットワーキングソリューションの実装を計画する際に直面する5つの重要な質問に答えます。
1. スマートマニュファクチャリングを実現する主要なテクノロジーが重要である理由と、それらがどのように相互作用するかについて教えてください。
Stefan:スマートマニュファクチャリングは、インターネット経由でネットワーク接続されたマシンを使用して生産プロセス全体をシームレスに監視するという技術コンセプトです。スマートマニュファクチャリングにおいてデバイスは、リアルタイムデータを含むさまざまなソースからデータを継続的に収集して分析し、デジタル情報技術を通じて新しいレベルの適応性や設計の迅速な変更を可能にします。さらに、データサイエンティストはデータを使用して製造プロセスをシミュレートすることで、ある一定ののことをより効率的に行う方法を見つけ出すことができます。したがって、このデータをすべて抽出して分析できることが重要であり、これが可能になればこのすべてのデータから知識と洞察を得ることができます。これには、シームレスで安全な相互運用性が必須の前提条件であり、OPC UAはまさにこの部分を扱っています。
さらに、OPC UAは以下のことを行っています。
- OPC UA FX(Field eXchange)など、クラウドから現場レベルまで幅広いアプリケーションをサポート
- IEC/IEEE 60802プロファイルをサポートすることでITおよびOTの異なるプロトコルが共通のネットワークインフラで共存できるように、TSNを補完
また、OPC Foundationは以下の強みを持った組織と協力しています。
- 5GおよびWi-Fi 6/7といった新しいテクノロジー
- プロセス産業の要件を定義するAdvanced Physical Layer(APL)プロジェクトグループ
このように、OPC UAはファクトリーオートメーションとプロセス産業の両方における数多くのアプリケーションで普及しつつあります。
Jack:OPC UA FX、TSN、5G、Wi-Fi 6/7、Single-pair Ethernet (SPE)/Ethernet-APLは、同じパケットスイッチングとイーサネット基盤を共有しているため、相互に簡単に接続し、IEEE 802.1、TSN TG、802.3、802.11 TGbe、IETF、5G-ACIA、IEC/IEEE 60802の共同プロジェクトなど、ほぼすべての規格団体やコミュニティに関するあらゆる産業パートナーの包括的な取り組みと連携します。簡単に言えば、これらの技術は、さまざまな産業用アプリケーションで相互に高レベルな効果を発揮するやり取りを実現しています。
2. スマートマニュファクチャリング向けの新しいテクノロジーは、グリーンフィールドアプリケーション(新規導入設備)だけに限定されているのでしょうか?ブラウンフィールドアプリケーション(既存設備の刷新)についてはどうでしょうか?
Stefan:お客様は既存テクノロジーにすでに投資しており、一晩ですべてを変えられるわけではないことを忘れてはなりません。ですから、良いものからさらに良いものへ、円滑な移行が必要です。OPC UAテクノロジーに新たに追加されたOPC UA FXは、すでに定着している各種通信プロトコルが共通のネットワークインフラに共存可能とすることで、この移行を支援します。これにより、従来のフィールドバスイーサネットプロトコルやリアルタイムイーサネットプロトコルから、一体化された通信ソリューションへの移行が可能になります。これこそが、既存の産業オペレーションを実用的な方法でスマートファクトリーに進化させるための正しいアプローチです。
Jack:これらの新しいテクノロジーの採用を検討する場合、グリーンフィールドアプリケーションだけでなく、ブラウンフィールドアプリケーションについても検討しています。例えばIEEE 802.1 TSN TGについて言うと、これらの機能は「TSN関連」と見なされ、40年以上にわたって認められてきた技術に基づいています。私たちは強固な基盤の上にこれらの機能を開発してきました。つまり、これらの機能には後方互換性と前方互換性の両方が備わっているのです。
3. これらのテクノロジーは機械学習や人工知能にどのような影響をもたらしていますか?
Stefan:機械学習や人工知能(AI)では、予測の蓋然性を高めるために高品質なデータ入力が必要です。これについて私は以下の2つのことを考えています。
- チップ技術の進歩と新しいシングルペアイーサネット接続のおかげで、OPC UAを介して通信できるイーサネット接続を備えた、これまで以上に小型のインテリジェントセンサーが間もなく登場するでしょう。スマートマニュファクチャリングのリアルタイム要件は、TSNによる銅線、または5G/Wi-Fi 6/7を使用した新しい無線信号を介して達成できます。また、このような次世代センサーはデータと洞察の新しい提供元にもなるでしょう。
- これらの新しいデータソースは、OPC UAの包括的なデータセマンティクスを通じて、機械学習や人工知能のための高品質の入力も提供するでしょう。値やその単位およびしきい値に関する完全な情報が絶対時間のタイムスタンプと一緒になって提供されるということは、アルゴリズムの予測品質が定性的にますます良くなる、ということになります。つまり、すべてのデータサイエンティストにとっての夢が実現するわけです。
Jack:優れたデータは常に大量の情報から抽出する必要がありますが、物理的な制限によって、情報を共有するためのスペースと速度には限りがあります。そこで、TSNと5Gなどの非常に信頼性の高い無線テクノロジーが登場します。TSNは、すでに定評のある産業用イーサネットネットワークの10倍から100倍の帯域幅を提供し、5Gは従来のセルラーテクノロジーの10倍の容量を提供します。これらのテクノロジーは時間確定性と超低遅延性を備えているため、高解像度の画像やビデオストリーミングなど、より正確で高品質の情報を確定的に送信できます。さらに、Single-pair Ethernet (SPE)(SPE)やEthernet-APLテクノロジーにより、データアクセスがアプリケーション内のセンサーだけでなくエッジのデバイスまでシームレスに拡張されるため、全体像を把握できます。
4. 10年後のスマートマニュファクチャリングはどうなっているでしょうか?
Stefan:未来の工場でもやはり人が不可欠ですが、安全性と効率性を高めるには、さらには可能であればカーボンニュートラルな製造を実現するには、ロボットやインテリジェントマシンとの連携がさらに必要になります。そのため、運用技術(OT)は、情報技術(IT)から生産性に関する実績のある進歩を数多く採用するでしょう。ITは、その形を変えるものの、マシンや工場での有用性を見出すことになるでしょう。
これを達成するために、OPC UAはクロスプラットフォーム、クロスインダストリー、クロスカントリーの産業通信を可能にします。未来のデバイスは、機能や特徴が拡張されたサイバーセキュリティをリモートでアップデートできるスマートデバイスになります。デバイスが同じ標準セットを使用して相互に通信でき、またクラウドと通信できることが重要です。したがって、OPC UA、TSN、5G、Wi-Fi 6/7、Single-pair Ethernet(SPE)/ Ethernet-APLはすべて、将来にわたって引き続き重要な役割を果たします。
Jack:インダストリー3.0の特徴が事前にプログラムされた独立したループとプロセスであるならば、インダストリー4.0は、コラボレーティブで迅速な対応が可能な、調和のとれたシングルループであると言えます。人、マシン、データ、またはネットワークのいずれであっても、すべてのリソースが調和して結び付くことで、生産目標を達成するために、適切なリソースが適切な場所とタイミングで動員され、利用可能になります。
5. 未来のスマートマニュファクチャリングの実現を妨げている障害は何でしょうか?
Stefan:ITとOTのコンバージェンスが継続するように、ITとOTを隔てるサイロを解体する必要があります。分野を超えたオープン性と協力の文化を促すことで、ITとOTの関係者が知識を交換し合い伝達し、相乗効果が生まれカーボンニュートラルが実現されます。
Jack:これらの重要なテクノロジーにおける多くのポジティブな側面について説明してきました。ただし、ビジネスイニシアチブや、投資におけるROIなど、現実で考慮すべき事柄はまだあります。現在の市場の需要を満たすことと将来への投資とのバランスを取るのに苦戦しているお客様を時々目にします。実際、現在の市場の需要が原因で将来への投資が遅れることがあります。組織は、不確定要素を特定し、リスクを軽減し、予期せぬ障害を克服し、ビジネスが進化するためのリーダーシップを発揮するための措置を講じることをお勧めします。
まとめ
Stefan氏とJackが述べているように、スマートマニュファクチャリングの未来は、OPC UA、TSN、5G、W-Fi 6/7、Single-pair Ethernet(SPE)/ Ethernet-APLといった、多くの部門にまたがる相互運用性を可能にする規格の上に実現していくことになります。スマートマニュファクチャリングとTSN実現への取り組みについての詳細は、MoxaのTSNマイクロサイトをご覧ください。